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東京地方裁判所 平成3年(ワ)14513号 判決

主文

一  原告の主位的請求を棄却する。

二  被告は、原告に対し、金一億〇五二二万六七四〇円及び内金一億〇〇二二万六七四〇円に対する平成六年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の予備的請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  請求

一  主位的請求

被告は、原告に対し、五億五六七四万八三一四円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

被告は、原告に対し、三億一六一五万二七二二円及び内金三億〇六九四万四三九一円に対する平成六年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告新宿西口支店(以下「西口支店」という。)の投資相談課長によつてワラント及び新規公開株の購入代金名下に金員を騙取された原告が、主位的には、被告との間で証券取引法(以下「証取法」という。)六四条一項に基づきワラント及び新規公開株の買付及び売付の委託契約が成立したとして、右売付委託契約に基づく未払売却代金支払請求及び右買付委託契約の債務不履行による解除に基づく買付代金返還請求をし、予備的には使用者責任に基づく損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実等

1  被告は、有価証券の売買等の媒介、取次及び代理等を目的とする株式会社である。甲野太郎(以下「甲野」という。)は、被告の従業員で証取法六二条に定める外務員であつた者であり、昭和六三年七月に西口支店に配属され、平成元年七月から同支店の支店長に次ぐ役職である投資相談課長の地位にあつたが、平成三年七月七日に被告を懲戒解雇になり、同年一一月二九日、原告他三名を被害者とする詐欺罪により懲役五年六月の有罪判決を受け、現在服役中である(以上の事実は争いがない。)。甲野は、西口支店の投資相談課長として、株式等の有価証券の売買の勧誘及び顧客からの注文の受託等の業務に加えて、新規公開株について、顧客の入札申込みの取次並びに公募売出しについての買付申込みの受付及び西口支店の割当分の顧客への配分決定等の業務にも従事していた。

なお、新規公開株を取得する方法としては、入札と公募売出しの二つの方法しかなく、証券会社は落札人にはなりえず、落札人になるのは入札申込人であり、入札申込株数及び公募売出しの割当株数は、平等化を図るため、通常は一人一〇〇〇株に制限されていた。

2  原告は、昭和五三年に被告新宿野村ビル支店において被告に対し株券を預託し、その後、被告に対し株式の売買等の委託をしていたが、昭和六三年七月に西口支店に取引口座を開設し、取引店を被告新宿野村ビル支店から西口支店に変更し、被告に対し株式売買等の委託をしていた者である。平成元年六月ころからの西口支店における原告の取引の担当者は甲野であつた。

二  争点

(原告の主張)

1 主位的請求原因(契約責任)

原告は、平成二年一二月二六日ころから平成三年六月二六日までの間に、甲野との間で、別紙ワラント及び新規公開株式取引一覧表(以下「別紙一覧表」という。)購入銘柄欄記載のとおりのワラント及び新規公開株(以下「本件株式等」という。)の買付委託契約を締結し、そのころ別紙一覧表記載のとおり、本件株式等のほとんどについて売付委託契約を締結した。

ところが、甲野は、本件株式等の取引を現実に行うことがなく、結局、原告は、本件株式等の購入代金名下に、甲野に金員を騙取されたのであつた。

しかし、甲野は、証取法六四条一項により有価証券の売買その他の取引に関し、被告の一般的代理権限を有しているとみなされ、しかも原告は、甲野の権限濫用の意図につき善意無過失であつたから、同法六四条二項又は民法九三条ただし書の趣旨に照らしても、甲野の右詐欺に際して締結された原告と甲野との間の本件株式等の買付及び売付の委託契約の法律効果は被告に帰属する。

したがつて、被告には、原告に対し、本件株式等の未払の売却代金合計四億〇七五六万〇六四四円の支払義務がある。また、本件株式等のうち、いまだ原告が売付委託をしていなかつた別紙一覧表33、35、37及び38記載の泉州電業他四銘柄の新規公開株については、原告は、被告に対し、被告が買付を行つていないことを理由に、平成三年一〇月二五日送達の本件訴状をもつて、各買付委託契約を解除する旨の意思表示をしたので、被告は、原告に対し、右各新規公開株の買付代金として原告が甲野に支払つた合計一億五九一八万七六七〇円の返還義務がある。

よつて、原告は、被告に対し、本件株式等の未払売却代金合計四億〇七五六万〇六四四円及び前記各買付委託契約の債務不履行による解除に基づく返還金合計一億五九一八万七六七〇円の合計五億六六七四万八三一四円並びにこれに対する弁済期日の後である平成三年七月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 予備的請求原因(使用者責任)

甲野の前記詐欺(不法行為)は、外形上被告の事業の執行の範囲内に属するものであり、被告は甲野の使用者として、民法七一五条一項本文に基づき、原告が被つた損害を賠償すべき責任を負う。

よつて、原告は、被告に対し、別紙一覧表支払方法欄記載のとおり甲野から騙取された合計四億〇〇五六万四〇五九円から、別紙一覧表の摘要欄記載のとおり甲野から清算金名目で支払われた合計一億四九九九万七二〇九円を控除した残金二億五〇五六万六八五〇円に銀行からの借入金利五六三七万七五四一円及び弁護士費用九二〇万八三三一円を加えた損害金合計三億一六一五万二七二二円並びに弁護士費用を除く三億〇六九四万四三九一円に対する不法行為の日の後である平成六年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張)

1 甲野は、本件株式等の購入代金名下に金員を騙取したものであつて、原告と被告との間において、本件株式等の買付及び売付の委託契約は成立していない。取引の経過及びその代金の支払方法等からすれば、本件株式等の取引は、原告と甲野個人との間で行われたとみるべきで、被告の業務の執行としてなされたものではない。

2 また、原告は、甲野の前記詐欺(不法行為)が甲野の職務権限の範囲外の行為であつたことについて悪意又はそれを知らなかつたとすれば重大な過失があるから、被告は、証取法六四条二項により主位的請求に係る契約責任を負わないし、予備的請求に係る使用者責任も負わない。

3 仮に原告において悪意又は重過失がないとしても、原告に過失があつたことは明らかであるから、過失相殺されるべきである。

第三  争点に対する判断

一  《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

1  原告は、平成元年六月ころから平成二年一〇月二九日までの間に甲野を通じて被告に対し、株式、ワラント、投資信託、公社債、外国証券、転換社債等の有価証券の買付及び売付の委託を数百回にわたつて行い、公募売出しの新規公開株を一〇〇〇株買い付けたこともあつた。原告は、右期間の被告との取引によつて、結局、約九〇〇〇万円の損失を被つていた。

2  甲野は、ワラントを譲る意思もその見込みもないのに、原告に対し、「原告が被つた損失の穴埋めのため、本社の指示で新規発行のワラントを買つてもらい儲けてもらうことになつた。」「お約束どおりワラントを買い付けたが代金を今日中に支払つてもらわないと間に合わなくなる。」などと虚偽の事実を申し向け、また、新規公開株を譲る意思もその見込みもないのに、「他人名義で落札した新規公開株がある。特別に原告に譲る。他人名義で落札している関係上手続があるので、本日中に私の口座に代金を振り込んでもらわないと間に合わなくなる。」などと虚偽の事実を申し向け、原告をその旨誤信させ、平成二年一二月二六日ころから平成三年六月二六日までの間に、本件株式等の買付代金として、原告から一九回にわたつて合計四億〇〇五六万四〇五九円の現金の交付及び銀行口座振込を受けてこれを騙取した。

なお、ワラント及び新規公開株は、いずれも外務員ひいては証券会社が他人名義あるいは架空人名義で取得することはできないきまりになつているし、新規公開株の入札申込数及び公募売出し割当数は、通常は一人一〇〇〇株と制限されているものであるが、本件株式等の取引に関しては、甲野は、他人名義で取得したワラント及び新規公開株を譲渡すると説明したり、新規公開株について、原告に一万株を超える売付をする旨説明したこともあり、更にワラントについて一月後に買戻すなどと約束したこともあつた。

甲野の原告に対する右のような欺罔行為は、原告が西口支店を訪ねた際同支店内において行われたり、西口支店から原告の会社や自宅に電話をかけてくるという方法で行われた。そして、新規公開株の買付の受託を装つた詐欺に際しては、原告は、被告の入札申込書と題する所定の用紙に必要事項を記入して、甲野に交付したこともあつた。

3  本件株式等の買付の受託を装つた詐欺が行われていた時期と並行して、原告及び原告が代表者を務める有限会社峯不動産が、甲野を通じて被告に対し、正規に株式及びワラント等の買付及び売付の委託を行つたものがあつたが、これらの正規の取引に関しては、被告作成の取引報告書が、取引後数日以内に原告に郵送されている。

本件株式等の取引については、現実には取引が行われなかつたものであるから、原告に対して被告作成の取引報告書が発行送付されることはなかつた。また、原告に郵送されていた「お取引の明細」と題する書面(いわゆる月次報告書)には、前記の正規の取引は記載されているが、本件株式等についての取引の記載はなかつた。

甲野は、原告に対して、本件株式等の売買取引計算について、手書きのメモを作成して交付し、また、被告の所定の「売買取引計算書」と題する用紙にも取引の計算を手書きで記入して交付していた。そして、右計算書には、現実に被告に取引を委託した場合と同様の計算方法をとり、取引手数料額及び取引税額等も計算に加えて差引損益を計算して記載していた。

原告は、被告との有価証券取引に関し、平成三年一月から五月までの各月末現在の取引明細並びに預託金及び証券残高等の内容に相違ない旨の回答書に署名押印し、郵送又は西口支店において甲野に交付する方法で被告に差し入れたが、これらの回答書にも本件株式等については記載がなかつた。甲野は、原告に回答書の交付を求めるため、原告方を訪問したこともあり、その際には、原告の求めに応じて、本件株式等の取引について甲野が作成した前記「売買取引計算書」を交付して、取引の計算を説明したこともあつた。

4  原告は、西口支店に取引口座を有していたが、甲野によつて仮装された本件株式等の買付に関しては、代金を右取引口座に入金したことはなく、そのほとんどは、甲野に対して現金を交付する方法でなされ、甲野が受け取つたことの証しとして自分の名刺の裏に現金を預つた旨記載して原告に交付した場合もあつた。原告は、平成三年の五月及び六月に合計四回、合計金額三〇三〇万六五三一円を甲野が指定した銀行の甲野個人名義の普通預金口座に振り込む方法で支払つた。

甲野は、ワラント及び新規公開株を売り付けて新たにワラント及び新規公開株を買い付けた際の売却代金から買付代金を控除した清算金という名目で、原告に対し、別紙一覧表の摘要欄記載のとおり合計一億四九九九万七二〇九円の現金を交付し又は振込依頼人名に原告の名前を使用して原告の普通預金口座に振り込む方法で支払つた。甲野からの清算金の支払は、平成三年五月中までは少し遅れることはあつても計算どおりの金額が支払われていたが、同年六月に入ると、一部未返済となり、同月末には、甲野は、清算金の支払につき、全額は無理であるが一部だけその日のうちに支払う旨述べたこともあつた。

二  判断

1  主位的請求(契約責任)について

原告が主張する本件株式等の買付委託契約は、前記認定のとおり、新規公開株については、外務員である甲野が他人名義で取得したものを対象とし、入札申込株数及び公募売出し割当数は通常は一人一〇〇〇株に制限されるのに、買付数が一万株を超えるものがあり、また、ワラントについても、甲野が他人名義で取得したものである旨説明したり、一月後には買戻す旨約束したりしたものである。

ところで、証取法六四条一項の「その有価証券の売買その他の取引」とは、当該外務員が所属する証券会社が現実に営んでいる取引のことをいい、同条で擬制される外務員の一般的代理権の範囲は、当該証券会社の現実に営んでいる営業範囲に限定されると解するのが相当である。したがつて、証取法六四条一項の適用があるためには、問題となつた外務員の行為がその所属の証券会社が現実に営む業務の範囲内であることを要するというべきである。

これを本件についてみると、甲野は、他人名義で取得した株式等を売付の対象にしたり、新規公開株について制限数を大きく上回る株数の売付を行つたり、ワラントについて買戻しを約束するなどしたのであつて、甲野の右行為は、被告が現実に営む業務の範囲内であるとは認められないから、証取法六四条一項の適用はないといわざるを得ない。

よつて、その余の点について判断するまでもなく、主位的請求(契約責任)は理由がない。

2  予備的請求(使用者責任)について

(一) 甲野は、ワラントの買付及び売付の勧誘及びその注文の受託並びに新規公開株について顧客の入札申込みの取次、公募売出しの買付申込みの受付及び公募売出しの西口支店の分の顧客への配分決定等の業務に従事していたものであつて、本件株式等の買付の受託を装つた甲野の行為は、外形上は被告の事業の執行の範囲内に属するものと認められる。

(二) しかし、被用者の取引行為がその外形からみて使用者の事業の範囲内に属すると認められる場合であつても、それが被用者の職務権限内において適法に行われたものではなく、かつ、その相手方が右の事情を知り、又は少なくとも重大な過失により右の事情を知らないものであるときは、その相手方である被害者は、民法七一五条により使用者に対してその取引行為に基づく損害の賠償を請求することができないものと解される(最高裁判所昭和四二年一一月二日判決・民集二一巻九号二二七八頁参照)。ここにいう重大な過失とは、取引の相手方において、わずかな注意を払いさえすれば、被用者の行為がその職務権限内において適法に行われたものでない事情を知ることができたのに、そのことに出でず、漫然これを職務権限内の行為と信じ、もつて、一般人に要求される注意義務に著しく違反することであつて、故意に準ずる程度の注意の欠缺があり、公平の見地上、相手方にまつたく保護を与えないことが相当と認められる状態をいうものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四四年一一月二一日判決・民集二三巻一一号二〇九七頁参照)。

そして、甲野が仮装した本件株式等の取引は、甲野の職務権限内において適法に行われたものではないから、このことについて原告が知つていたか、又は知らなかつたことにつき重大な過失があつたかについて以下検討する。

原告は、昭和五三年に被告新宿野村ビル支店に株券を預託して以来、新規公開株の入札申込、公募売出し分の買付及びワラント買付等を含む株式等の売買取引の経験を豊富に有していたものであるところ、

(1) 甲野が、新規公開株について、他人名義で取得したと説明していたこと、入札申込株数及び公募売出しの割当株数が通常は一〇〇〇株に制限されるのに本件では一万株を超えるものもあつたこと、ワラントについても、他人名義で取得したものであると説明したり、一月後に買戻すと約束していたことなどからすれば、本件株式等の取引内容自体が、被告との取引としては不自然であつたこと、

(2) 本件株式等の買付の受託を装つた詐欺と時期的に並行して行われていた正規の取引については、被告作成の取引報告書が郵送され、月次報告書にも記載があつたにもかかわらず、本件株式等の取引については、取引報告書の郵送がなく、月次報告書にも記載がなかつたこと及び甲野から交付されたのは手書きで記入された売買取引計算書のみであり、これが被告の正規の書類でないことはその体裁からして明らかであつたこと、

(3) 原告は西口支店に取引口座を有していたにもかかわらず、甲野に対して現金を交付して代金を支払い、甲野からは名刺の裏に手書きで記入しただけの領収証を受け取り、また、甲野の取引銀行の甲野個人名義の普通預金口座に代金を振り込んだこともあつたこと、

(4) 清算金の支払も現金の交付又は原告の普通預金口座への振込であり、しかも、振込依頼人が原告名義であつたり、支払が遅れることがあり、最後には甲野から一部についてのみとりあえず支払う旨述べられたこと、

等の事情からすれば、本件株式等の取引は被告との取引とは異なるのではないかとの疑問を抱いて当然であり、疑問を抱けば、西口支店に問い合せるなどして確認することは容易であつたといえ、原告には、甲野の行為が、その職務権限の範囲を逸脱して行われたことを知らなかつたことについて過失があるというべきである。

しかしながら、甲野の詐欺は、(イ)西口支店を欺罔の場所とし、(ロ)時期的にも被告との正規の取引と並行して行われ、(ハ)被告の所定の入札申込用紙、売買取引計算書用紙等を使用し、(ニ)正規の取引がなされた場合と同額の取引手数料額及び取引税額等を加えて計算して差引損益を計算していたことに加え、(ホ)「本社の指示」で原告に儲けてもらうことになつた旨説明するなど、西口支店の投資相談課長としての地位を利用し、かつ、詐欺であることを原告に気付かれないための手段として、被告も承認している取引であると見せかけるべく巧妙な手口を使つたこともあり、原告において、甲野が、被告の承認の下に、その地位、権限を利用し、自己のために特別に本件株式等を融通してくれると信じたとしても無理からぬ面もあつたといえる。

したがつて、前記(1)ないし(4)の事情があるからといつて、原告において、本件株式等の取引が甲野の職務権限の範囲を逸脱して行われたものであることを知つていたとは認められないことはもとより、それを知らなかつたことについて、故意に準ずる程度の注意の欠缺があり、公平の見地上、まつたく保護を与えないことが相当と認められる状態である重大な過失があつたと認めるにはいまだ十分ではないというべきである。

(三) 過失相殺について

原告には、前記(二)で認定したとおりの過失があり、甲野の行為が被告の職務権限の範囲に属するものであるか否かについて、原告が十分に注意を払つてさえいれば、容易に右損害を免れることができたものといえることから、右過失を原告に対する損害賠償額の算定に当つて考慮することが妥当であり、右過失の程度に照らし、その過失割合は六割とみるのが相当である。

(四) 損害について

甲野の本件不法行為により原告が被つた損害を検討するに、甲野から騙取された合計四億〇〇五六万四〇五九円から、清算金名目で支払われた合計一億四九九九万七二〇九円を控除した残金二億五〇五六万六八五〇円が損害となることは明らかであるが、銀行からの借入金利については、原告が本件株式等の買付資金を銀行から借り入れて充てていたという事情について、甲野が不法行為の当時予見し又は予見し得たと認めるに足りる証拠はないので、本件不法行為と相当因果関係のある損害とは認められない。そこで、前記の割合で過失相殺すると、損害額は、一億〇〇二二万六七四〇円となる。なお、弁護士費用については、本件事案の内容、認容額等本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば、本件不法行為と相当因果関係のある損害としては、五〇〇万円をもつて相当であると認められる。

よつて、被告の原告に対する損害賠償債務額は、一億〇五二二万六七四〇円である。

三  結論

以上によれば、原告の主位的請求は、理由がないからこれを棄却し、予備的請求は、一億〇五二二万六七四〇円及び弁護士費用を除く一億〇〇二二万六七四〇円に対する不法行為の日の後である平成六年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 萩尾保繁 裁判官 浦木厚利 裁判官 楡井英夫)

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